夜中、ふとやってくる「5年後への不安」という名の怪物
「5年後、私、どうなってるんだろう……」
深夜2時。スマホのブルーライトに照らされた天井を見つめながら、ため息が部屋に溶けていきます。SNSを開けば、同世代の友人たちが次々と「結婚しました」「起業しました」「転職してキャリアアップしました」と、輝かしいマイルストーンを刻んでいる報告ばかり。それに比べて、私はどうでしょう。
毎日満員電車に揺られ、代わり映えのしないエクセルと向き合う日々。手取りは20万円から大きく増える気配もなく、特別なスキルがあるわけでもない。このままで本当に大丈夫なのかな? 30代になったとき、私には何が残っているんだろう。
ベッドの中で考え始めると、不安という名の怪物がどんどん膨らんでいきます。仕事、お金、結婚、老後……。考えなきゃいけないことは山積みのはずなのに、何から手をつければいいのかすらわかりません。「何か行動しなきゃ」という焦りだけが空回りして、結局何もできずに朝を迎える。そんなループに陥っている方、私だけではないはずです。
世の中には「5年後のビジョンを持て」「逆算してキャリアプランを立てろ」といった自己啓発の言葉があふれています。確かに正論かもしれません。でも、その正論が、今の自分を余計に苦しめているとしたら?
「将来が不安で押しつぶされそう」 「今の生活を続けていていいのかわからない」 「でも、何をどう変えればいいのかわからない」
そんなふうに、見えない未来に怯えてモヤモヤしているあなたへ。今回は、いつも私が入り浸っている純喫茶の常連客、通称「テキトー紳士」のおじさまに、この重苦しい悩みをぶつけてみることにしました。
彼はいつも、いい意味で力の抜けた、でもどこか本質を突くアドバイスをくれます。「しっかりしなきゃ」とガチガチになっている私たちの心を、フッと軽くしてくれる。そんな彼の言葉を、あなたにもお裾分けさせてください。
相談タイム:「5年後のことなんて、神様だって知らんわな」
(カランコロン)
レトロなベルの音とともに、いつもの純喫茶のドアを開ける。焙煎されたコーヒーの香ばしい匂いと、微かに流れるジャズのBGM。カウンターの奥では、今日もマスターが静かにサイフォンを見つめている。
そして、窓際の定位置には、使い込まれた革のブックカバーの文庫本を片手に、ウインナーコーヒーのクリームをスプーンで掬っている初老の男性——「テキトー紳士」の姿があった。
モヤ子:「おじさま、こんにちは……」
テキトー紳士:「おや、モヤ子ちゃん。今日は一段と、この世の終わりみたいな顔をしてるね。カスタードプリンでも落ちてたのかい?」
モヤ子:「プリンなら拾って食べますよ。……はぁ。実は、昨日の夜からずっと、将来のことが不安で眠れなくて。目の前のコーヒーカップすら重く感じます」
テキトー紳士:「将来の不安ねぇ。まあ、座りなさい。マスター、彼女に温かいココアを。マシュマロ多めでね。で、何がそんなに不安なんだい?」
モヤ子:「全部です! 仕事も、このまま今の会社にいていいのかなって思うし、お給料も全然上がらないし。友達はどんどん結婚したりキャリアアップしたりしてるのに、私だけ同じ場所で足踏みしてるみたいで……。今の自分に何のスキルもないから、5年後どうなってるか想像すると怖くてたまらないんです。『5年後のビジョンを描け』ってよく言うじゃないですか。私、それが全く見えなくて」
テキトー紳士:「ふむ。5年後のビジョンねぇ。意識高い系の人たちが好きそうな言葉だ。モヤ子ちゃん、ちょっと聞いていいかな。君、5年前の今日、何をしてたか覚えてる?」
モヤ子:「5年前の今日? ええっと……学生時代の終わり頃ですよね。何してたかな。多分、卒業旅行の計画とか、卒論の直しとか……いや、全然具体的に思い出せません」
テキトー紳士:「じゃあ、5年前の君は、今の君が『手取り20万で将来が不安だ』って喫茶店でオジサンに愚痴をこぼしてる未来を、完璧に予想できてたかい?」
モヤ子:「予想できてるわけないじゃないですか! 5年前は、もっとキラキラした社会人生活を夢見てましたよ。バリバリ働いて、休日は代官山でブランチして……みたいな」
テキトー紳士:「そうだろう? 人間なんて、自分の5年前の記憶すら曖昧だし、5年前に思い描いていた未来通りに生きてる奴なんて、ほんの一握りさ。というか、そんな完璧なシナリオ通りに進む人生なんて、映画の再放送みたいでつまらないじゃないか」
モヤ子:「それは……そうかもしれませんけど。でも、世間では計画性が大事だって言うじゃないですか」
テキトー紳士:「世間ねぇ。世間様は君の人生の責任を取ってくれるのかい? 『5年後のビジョン』なんてものはね、投資家からお金を引っ張ってくる起業家とか、会社の経営計画を立てる役員が考えりゃいいんだよ。モヤ子ちゃんみたいな普通の女の子が、無理してでっち上げるもんじゃない」
モヤ子:「でっち上げるって……」
テキトー紳士:「だってそうだろう? 無理やりひねり出した『5年後には英語をマスターして外資系に転職!』みたいな目標、心からワクワクしてるかい? ただ『そうならなきゃヤバい気がする』っていう焦りから来てる防衛本能じゃないのかい?」
モヤ子:「図星……かも。本当は、英語なんて勉強したくないし、今の会社の人間関係は嫌いじゃないんです。ただ、SNSとか見てると、『成長してない自分はダメなんじゃないか』って思っちゃって」
テキトー紳士:「SNSねえ。あれは他人の人生の『一番映える瞬間』だけを切り取った、言わば人生のハイライト集だよ。君のNGシーンだらけの日常と、他人のハイライト集を比べたって、落ち込むに決まってるじゃないか」
モヤ子:「でも、どうすればこの不安は消えるんですか? 毎日『このままでいいのかな』って頭の中をグルグル回ってて……」
テキトー紳士:「消そうとするから苦しいんだよ。不安ってのはね、生きている証拠だ。防衛本能だからゼロにはならない。ただ、扱い方が間違ってる。君は今、まだ起きていない未来のことで、今日の自分のエネルギーを使い果たしている。それって、ものすごくもったいないことだと思わないか?」
モヤ子:「今日のエネルギーを、未来に使っている……」
テキトー紳士:「そうさ。いいかい、モヤ子ちゃん。人生なんて、適当でいいんだよ。『適当』っていうのは、いい加減にやるって意味じゃない。『その時々で、自分にとって適切に当たる』ってことだ」
モヤ子:「適切に当たる……」
テキトー紳士:「そう。5年後の天気なんて気象庁だって外すんだ。そんな先の嵐を心配して、今日という晴れの日を傘をさして歩くのは馬鹿げてる。今、雨が降ってないなら、太陽の光を楽しめばいい。雨が降ってきたら、その時に傘を買うか、雨宿りするか、いっそ濡れて帰るかを決めればいいのさ」
モヤ子:「雨が降ってから考える……。でも、いざという時に困りませんか?」
テキトー紳士:「じゃあ、これまでの28年間、君は絶対絶命のピンチを乗り越えてこなかったのかい? ギリギリで単位を取ったり、ヤバい仕事のミスを平謝りで乗り切ったり、彼氏に振られて死にそうになっても、こうやって生きてココアを飲んでるじゃないか」
モヤ子:「まあ……確かに。振り返れば、なんとかしてきました」
テキトー紳士:「君には『なんとかする力』が備わってる。未来の君も、きっとその時の君が一番いいように適当になんとかするさ。だから、今の君が未来の君の心配まで背負い込む必要はない。今の君は、今日のココアが美味しいことだけを感じていればいいんだよ」
モヤ子:「(ゴクリとココアを飲む)……美味しいです。甘くて、ホッとします」
テキトー紳士:「それでいい。5年後の心配より、目の前のマシュマロだ。先のことを考えて頭がパンパンになったら、『まあ、5年後なんて神様だって知らんわな』って呟いてみなさい。肩の力が抜けるから」
モヤ子:「『5年後なんて神様だって知らん』……ふふっ、なんだか本当に、私が一人で勝手に焦ってただけみたいに思えてきました。おじさま、ありがとうございます」
テキトー紳士:「どういたしまして。さあ、冷めないうちに飲んでしまいなさい。未来の不安より、冷めたココアの方がよっぽど現実的な問題だからね」
5年後の不安を手放すための、3つの「テキトー」アクション
テキトー紳士との会話で、ガチガチに固まっていた心の結び目が、するすると解けていくのを感じました。「未来のために今を犠牲にする」のではなく、「今を適当(適切)に生きる」。
とはいえ、長年染み付いた「不安になる癖」はすぐには抜けません。そこで、テキトー紳士の言葉からヒントを得て、不安に飲み込まれそうになった時に実践したい「3つの具体的なアクション」をまとめました。
1. 「未来の逆算」をやめて、「今の積み上げ」にフォーカスする
「5年後にこうなりたいから、今はこれを我慢する」「逆算して今のタスクを決める」。ビジネス書でよく見るこの方法は、目標が明確な人には有効ですが、やりたいことがわからない人にとってはプレッシャーでしかありません。
テキトー紳士が言うように、5年後の自分なんてどう変わっているか誰にもわかりません。だから、「未来からの逆算」は一旦やめてしまいましょう。
その代わり、「今の自分が少しでも面白いと思うこと」「ちょっとやってみたいこと」を点として積み上げていくのです。例えば、「今日はいつもと違う帰り道を歩いてみる」「気になっていた本を1ページだけ読む」「エクセルのショートカットを1つだけ覚える」。
そんな小さな「今の積み上げ」が、結果的に数年後、思いもよらない面白い未来へと繋がっていくはずです。Appleの創業者スティーブ・ジョブズも「点と点をつなぐ(Connecting the dots)」と言っていましたよね。未来を予測して点を打つことはできません。後になって振り返った時にしか、点は線にならないのです。
2. 自分だけの「まあいっか」スイッチを持つ
不安が押し寄せてきた時、真面目な人ほど「不安になっちゃダメだ」「ポジティブに考えなきゃ」と自分を追い詰めてしまいます。しかし、感情は抑え込もうとするほど反発して大きくなるもの。
そんな時は、テキトー紳士直伝の魔法の言葉「まあいっか」を口に出してみましょう。
- 「今日もダラダラ過ごしちゃったな……まあいっか! 生きてるし!」
- 「同期がまた表彰されてる、私なんて……まあいっか! 私の人生じゃないし!」
- 「5年後、お金なくなったらどうしよう……まあいっか! その時の私がなんとかするっしょ!」
声に出すことで、脳の緊張状態がフッと緩みます。完璧主義を手放し、「適当(適切に当たる)」の精神を取り戻すための最強のスイッチです。騙されたと思って、不安になったら「まあいっか」と呟く習慣をつけてみてください。
3. 「今日1日」の最高をデザインする
未来への不安は、「今、ここ」に意識がない時にやってきます。意識が未来にタイムスリップしてしまっている状態です。これを「今」に引き戻すためには、今日という1日に全力で集中することが有効です。
壮大な5年計画は不要ですが、「今日1日をどう最高に過ごすか」の計画は立ててみましょう。
- お昼ごはんは、気になっていたあのお店のランチを食べに行く。
- 夜はスマホの電源を切って、お気に入りの映画を観ながら好きなお酒を飲む。
- 寝る前に、ちょっといい香りのボディクリームを塗る。
「今日」という単位であれば、私たちはコントロールすることができます。今日1日を「ちょっといい日」にできたら、それは大成功。その「ちょっといい日」の連続が、結果的に「なんだかんだ悪くない5年間」を創り出していくのです。未来のために今を犠牲にするのではなく、今の自分を徹底的に喜ばせることにエネルギーを使ってみませんか?
休みの日に何もできなくて焦ってしまう……という方は、こちらの記事も参考にしてみてくださいね。今日を「最高にダラダラする日」と決めてしまうのも立派なデザインです!
まとめ:あなたは、あなたのままで「適当」に生きていける
いかがでしたか? 5年後の見えない未来に怯えて、今日の幸せを取りこぼしてしまうなんてもったいない。
テキトー紳士の言う通り、私たちはこれまでも、数々のピンチをなんとかして乗り越えてきました。だから、未来の自分をもっと信じてあげていいんです。「その時の私が、一番いいように適当になんとかするだろう」と。
将来の不安が完全に消えることはないかもしれません。でも、不安を感じたら「あ、また私の防衛本能が頑張ってるな」と客観視して、「まあいっか!」と温かいココアでも飲んでやり過ごしましょう。
モヤ子:「よーし、5年後の心配をする暇があったら、明日のランチをどこにするか本気で考えようっと! おじさま、ありがとう!」 テキトー紳士:「その意気だよ。……ところでモヤ子ちゃん、ココア代、ツケにしておくかい?」 モヤ子:「えっ! おじさまの奢りじゃないんですか!?」 テキトー紳士:「人生、そんなに甘くないってことさ。まあ、適当に払いなさいな」
肩の力を抜いて、今日という1日を少しだけ愛せるように。明日も適当に、ぼちぼちやっていきましょうね!

